「”超”実践的Googleサービス活用術」では、ツールの使い方に留まらず、実際の業務におけるデジタル活用を進めるために、ITコンサルティングの観点を踏まえながら「本当に業務で使えるGoogleサービスの使い方」を解説していきます。
DX・デジタル活用は「目的」ではない
企業や組織にとって、デジタル活用は喫緊の課題と言われ続けています。少し前になりますが、経済産業省が出した「2025年の崖」というレポートが注目を集め、デジタル・DX推進の機運が高まりました。しかし多くの企業や組織では「DXを進めろ」「デジタルを活用しろ」と言われながらも、「何から手を付ければよいかわからない」という状態が続いています。
本記事ではまず、「ツールの使い方」ではなく「デジタルを活用した業務改革を進めるための考え方」を整理します。
デジタルツールは活用方法によってビジネスの効率化を助けたり、新たなビジネスを生み出すための原動力にもなります。昨今はAI活用によってその傾向はさらに増しています。
ではデジタルツールは何のために使うものなのか。言わずもがなですが、「企業や組織の抱える課題を効率的に解決するため」です。しかし、「デジタルツールを使うためのDX」を見かけることも少なくありません。デジタルツールの活用はあくまで「手段」であり「目的」ではありません。まずはそこをはっきりさせましょう。
多くの現場が抱える業務課題の具体例
例えば、こんな課題を感じている企業や組織は多いのではないでしょうか。
- 問い合わせ・情報受付/記録管理の属人化分散
情報が人・媒体に紐づき、追跡・活用できない- 電話やメールで来る問い合わせの管理が煩雑で、誰が対応したかわからなかったり、返信漏れが発生したりする。
- 日報がメールで送られてくるため、過去のデータが埋もれてしまい、振り返りや集計ができない(誰が何件訪問したか等)。
- FAXで届く注文書や、手書きのアンケート用紙を目視でExcelに入力し直しており、枚数が多いと時間もかかるし転記ミスも発生する。
- 帳票作成・申請・承認業務の非効率(紙・Excel依存)
定型業務なのに手作業が多い- 見積書や請求書を毎回ExcelやWordの雛形からコピーして作成しており、宛名や金額の記入ミスが起きたり、個別にPDF化してメール添付する作業が発生している。
- 経費申請のためにレシートを台紙に貼ったり、Excelに入力して印刷・回覧するためにオフィスに必ず戻らなければならず、手間がかかるし。
- 承認の印鑑をもらうためにオフィスに出る必要がある。また申請書類がどこで止まっているかわからない。
- 人・モノの管理業務における手作業・転記負荷
現場情報と管理台帳が分断されている- 社員やアルバイトのシフトについて、LINEや紙で希望を集めて、管理者がExcelに転記して調整するのに手間がかかる。また、確定シフトを個別に連絡するのが面倒だ。
- 商品や備品の在庫を目視で数えて紙やExcelの台帳に記録しており、台帳と実在庫のズレが発生することがある。
- 期限・イベント管理の属人的運用リスク
「覚えている人」に依存している- 契約更新日や許認可の有効期限などをExcelで管理しているが、チェックを忘れて期限切れギリギリになってしまったり、場合によっては期限を超過して失効してしまう。
- イベントやセミナーなどで、参加者リストを紙で印刷し、当日受付で消し込み作業をするのだが、参加者が多いと受付に行列ができて待たせてしまう。
こうした課題はGoogleサービスをはじめとしたデジタルツールで解決することができます。以下は解決方法の例を示した一覧ですが、すべてを一度に導入・解決するためのものではありません。現場で困っているテーマを選び、小さく試すための例として提示しています。
| 課題解決方針 | 具体的な解決策 |
|---|---|
| 問い合わせ対応の自動化とステータス管理 | Google フォームで問い合わせを受け付け、GASで「自動返信メール」と「チャットツール(Slack/Chatwork/Google Chat)への通知」を行う。さらにスプレッドシート上で「未対応/対応中/完了」のステータス管理を行う簡易CRMを構築。 |
| 見積書・請求書の自動作成とPDF送付 | スプレッドシートやAppSheetでお客様名と商品・個数を選択するだけで、Google ドキュメントのテンプレートにデータを流し込み、自動でPDF化して顧客へメール送信する仕組みを構築。 |
| 社員やアルバイトのシフト管理と給与概算 | Google フォームで希望シフトを収集し、カレンダー形式のスプレッドシートに自動展開。GASを用いて個人のGoogleカレンダーに確定シフトを自動登録したり、稼働時間から給与概算を自動計算して本人に通知。 |
| 経費精算・レシートの画像保存(脱エクセル・脱紙) | AppSheet(またはフォーム)を使用し、スマホでレシートを撮影して送信するだけで申請完了とする。画像はGoogle ドライブに自動保存され、データはスプレッドシートに蓄積。上長には承認依頼が飛ぶ。 |
| 在庫・備品管理のバーコード化 | AppSheetを活用し、スマホのカメラでJANコードやQRコードをスキャンして入出庫を記録するアプリを作成。在庫が一定数を下回ったら管理者にアラートメールを送信(GAS)。 |
| 日報・業務報告の集約と可視化 | フォームやGoogle ChatのBot経由で日報を提出。内容はスプレッドシートに蓄積され、Looker Studio(旧Googleデータポータル)でダッシュボード化してチーム全体の動きを可視化する。 |
| 社内稟議(ワークフロー)のデジタル化 | フォームで申請し、GASで承認フロー(係長→課長→部長)を回す。承認ボタンを押すと次の承認者へメールが飛び、最終承認されるとPDFが発行されアーカイブされる。 |
| イベント・セミナーの受付システム(QRコード発行) | 申込時にGASで個別のQRコードを発行してメール送付。当日は運営スタッフがスマホアプリ(AppSheet等)でQRを読み取るだけで受付完了・来場記録とする |
| 契約書・許認可期限のリマインド自動化 | スプレッドシートで管理している日付データをGASで毎日チェックし、期限の30日前、7日前などに担当者のChatやメールに自動で警告通知を送る。 |
| 手書き書類・FAXのデータ化(AI-OCR) | Google ドライブの特定フォルダにPDFや画像を保存すると、GCPのCloud Vision API(またはDocument AI)が起動して文字を読み取り、スプレッドシートに自動でテキストデータとして書き出す。 |
しかし、デジタルツールを導入すれば課題がたちどころに解決するわけではないことも、現場の担当者の方はご存じだと思います。
「作り方や使い方がわからない」「システムを導入する予算が無い」「上司を説得できない」「職場全体のリテラシーが低くてITを使いこなせない」「うちの業務は特殊だからシステム化が難しい」。いろんな「できない理由」が存在するでしょう。
デジタル活用を阻む「5つの壁」
これらの「できない理由=壁」は大きく5種類に分類できます。

- 運用の壁:導入した後のメンテナンスを続けられるか。運用を定着させるにはどうすればいいか。
- 賛同の壁:業務プロセスの変更に対して、実際に利用する現場からの反発はないか
- 承認の壁:上司や上長・役員の承認が得られるか。効果や安全性(セキュリティ)を説明できるか
- 費用の壁:費用が掛かる場合、予算が獲得できるか。
- 技術の壁:組織にシステム導入を主導できる人材がいるか。
ツールを使いこなすためのノウハウを学ぶ「技術の壁」を超えるだけでは、デジタル活用には辿り着けないというのが、企業や組織でデジタル活用・DXを進めるにあたっての課題になります。
Google Workspace が業務改善に向いている理由
この「”超”実践的Googleサービス活用術」では、Googleサービスを使いこなすための技術的なノウハウだけでなく、「5つの壁」を乗り越えて、本来の目的である「デジタルを活用した業務改善」をGoogle WorkspaceやGoogleAppScript(GAS)を使って目指すための道筋を、その過程を伴走する形で示していきます。
その中で、GoogleWorkspaceは以下の点で「壁」を乗り越えるのに適しているツールであると考えています。
- 費用の壁:1人あたりの利用料は定額。メールやクラウドストレージなどの基本的なグループウェア機能に加えて、様々なアプリケーションを利用・構築できるので、作れば作るだけ費用対効果は上がる。
- 承認の壁:GoogleWorkspaceの権限・公開範囲等の設定により安全性を確保。効果仮説と検証方法を立てて論理的に説明する。
- 賛同の壁:いきなり大きな業務の変革を行わず、「実際に現場が困っていて改善したいと思っているもの」をヒアリングして、「少人数で実施していること」「1回の負荷は低いけど頻度が高いもの」を中心に、小さくはじめて効果を体感してもらう。
- 技術の壁、運用の壁:このブログで一緒に技術を勉強していく。構築技術だけではなく、運用ルールの設計や定着のためのトレーニングなども併せて学んでいく。
本連載で扱うテーマと今後の記事
次回以降の記事では、ここで挙げた具体的な業務課題を一つずつ取り上げ、
要件整理 → 設計 → 構築 → 運用定着
までを、実例ベースで解説していきます。
「自分の組織でもやってみたい」と感じた方は、ぜひ次の記事もご覧ください。
