「”超”実践的Googleサービス活用術」では、ツールの使い方に留まらず、実際の業務におけるデジタル活用を進めるために、ITコンサルティングの観点を踏まえながら「本当に業務で使えるGoogleサービスの使い方」を解説していきます。
「組織のDX・業務改善を進めるためには」の内容に基づき、具体的な業務課題を解決する事例を紹介していきます。今回は問い合わせ対応について、設計を取り上げてきます。
前工程である要件定義についてはこちらの記事で説明しています。この記事では要件定義時に例示した納期確認の例を元に説明を進めていきますので、まだ読んでいない方は要件定義の記事からご確認ください。
【効果設計】どのような効果を求め、何を測定するのか
なぜ「効果の設計」が最初に必要なのか

業務改善やDXを進める際、多くの場合「何を作るか」「どのツールを使うか」という議論からはじめてしまいがちです。しかし実務上、業務改善やDXが停滞する原因の多くは、設計や構築の前段階、つまり「本当にやるのか」「それだけの価値があるのか」を問われる場面です。
納期確認のような日常業務は、「今も業務は回っている」「システム化しなくても致命的な問題は発生していない」などの理由で、改善の優先度が下がりやすい傾向があります。
その結果、
- 今やる必要あるのか?
- どれくらい効果があるのか?
- 費用や手間に見合うのか?
といった問いに明確に答えられずに立ち消えになるケースは少なくありません。
だからこそ設計フェーズの最初に必要なのが、「何を改善したいのか」「改善した結果、何がどう変わったら成功なのか」を明確にするための「効果の設計」です。
これは「費用の壁」「承認の壁」をクリアするために非常に重要なフェーズです。
どのような効果を期待するのか
業務改善の効果は、大きく<定量効果>と<定性効果>に分けて考えると整理しやすくなります。
【定量効果(数値で説明できるもの)】
- 納期確認の問い合わせ管理において、代表的な定量効果は以下です。
- 問い合わせ対応にかかる時間の短縮
- 折返し漏れ・二重回答の件数削減
- 問い合わせの滞留件数削減
- 一次回答までのリードタイム短縮
これらは「1件あたり◯分短縮」「月◯件削減」といった形で、比較的説明しやすい効果です。
【定性効果(数値化しづらいが重要なもの)】
一方で、現場にとって実感しやすいのは定性効果です。
- 問い合わせ対応に対する心理的負担の軽減
- 担当者不在時でも業務が止まらない安心感
- 回答品質のばらつき低減
- 管理者が状況を把握できることで生まれる安心感
これらは数値化しにくいものの、「業務が楽になる」「トラブルが減る」のように、現場にとって業務改善の恩恵を実感できて、改善活動に対して前向きに取り組みやすくなります。
設計段階では、「全部を数値化しよう」とするよりも、定量で説明できるもの/定性で補足するものを意識的に分けることが重要です。
何を測定すれば「効果が出た」と言えるのか
効果を測定するには、「何を測るか」を先に決めておく必要があります。業務の規模にもよりますが、この時点で無理に完璧なKPIを設定しないほうが良いでしょう。
納期確認の問い合わせ管理であれば、例えば以下のような観点が想定されます。
- 月あたりの納期確認問い合わせ件数
- 未対応・対応中の問い合わせ件数
- 一次回答までの平均時間
- 暫定回答のまま止まっている案件数
これらは、特別なシステムを導入しなくても、問い合わせを「案件」として管理できれば自然に取得できる情報です。
ここでポイントになるのが、「測定したい項目を取れる構造で作れるかどうか」です。
そのため、設計①の段階でも「どういう仕組みで実装するか」の大枠イメージは持っておく必要があります。
費用・工数はどこで発生するのか
業務改善における負荷は、ツール費用だけでなく人の作業時間=工数も考える必要があります。
Google Workspace を前提にした場合、納期確認の問い合わせ管理は以下のような構成で実装することができます。
| 対象業務 | 想定機能 |
|---|---|
| 問い合わせ受付 | Googleフォーム、Gmail |
| 案件一覧管理 | Googleスプレッドシート |
| 履歴・証跡管理 | Googleドライブ |
| 通知・共有 | Gmail、GoogeChat |
この構成であれば、GoogleWorkspaceを契約していれば追加費用が発生しない一方で、ツールに関わらず以下の工数は確実に発生します。
- 管理項目(列設計)の検討
- 業務ルールの整理
- 試行運用・修正
- 関係者への説明・合意形成
つまり、「費用=ツール」ではなく「費用=設計と定着の工数」という認識を持つことが重要です。
費用対効果をどう説明するか(定量+定性)
費用対効果を説明する際、「何時間削減 × 人件費」という計算だけに頼る必要はありません。
例えば、
- 折返し漏れによるクレームが減る
- 回答遅延による取引先不満が減る
- 管理者が状況を把握できるようになる
といった効果は、「やらなかった場合のリスクを回避できる」として説明できます。
また、「まずは一部業務だけで小さく始める」「効果が見えたら広げる」という段階導入を前提にすれば、初期投資を抑えた説明も可能です。
セキュリティ観点で事前に整理すべきこと
| セキュリティ上の懸念・検討事項 | GoogleWorkspaceでの解決方法 |
|---|---|
| 閲覧・編集をできる人を制限したい | ユーザーごとに権限設定が可能 |
| 共有可能な範囲を限定したい | 共有範囲の制御が可能 |
| 管理を個人アカウントに限定したくない | 組織アカウントによる管理が可能 |
納期確認の問い合わせ管理で扱う情報は、取引先名、商品・数量、納期情報といった、社外秘情報に該当します。
そのため設計段階では、
- 誰が閲覧・編集できるか
- 共有範囲をどこまでにするか
- 個人アカウントで管理しない
といった基本方針を整理しておく必要があります。
Google Workspace であれば、
- 権限設定
- 共有範囲の制御
- 組織アカウントによる管理
を前提に設計できるため、個人のExcelやメールで管理するよりも安全な状態を作ることができます。
効果設計のポイント
効果設計において重要なのは、「完璧な設計」ではなく「承認され、実行され、測定できる設計」を作ることです。
- どんな効果を期待するのか
- 何をもって成功とするのか
- どこに工数がかかるのか
【運用設計】どのように運用するのか、どう定着させるのか
業務改善が失敗する最大の理由

業務改善やDXの取り組みが失敗する理由として、 「ツールが合わなかった」「機能が足りなかった」と語られることがあります。しかし、多くの業務改善において 失敗の最大の要因は「運用が回らなかった」ことです。
要件定義や設計がどれだけ綺麗にできていても、「データが入力・更新されない」「ツールの中の情報を参照されなくなる」という状態に陥れば、仕組みはすぐに形骸化します。
特に今回のような「納期確認の問い合わせ管理」は、
- 業務量が多い
- 即応性が求められる
- 日常業務に深く組み込まれている
という特徴があり、運用設計を誤るとすぐに使われなくなります。
だからこそ運用設計では、 「どう作るか」ではなく「どうすれば使われ続けるか」を主軸に考えて、「運用の壁」をクリアできるようにしていきましょう。
関係者ごとの視点で運用を考える
運用設計でまず行うべきなのは、関係者ごとに「この仕組みを使う意味」を整理することです。
担当者(営業・総務経理)の視点
担当者にとって最大の関心事は非常にシンプルです。
- 手間が増えないか
- 仕事が楽になるか
- ミスを防げるか
問い合わせ管理の仕組みが 「入力しなければならないもの」「管理のために増えた作業」と認識された瞬間、運用は破綻します。そのため、
- 電話対応を受けた際、最低限の情報を記録するだけでよい
- 進捗が見えることで自分が楽になる
といった担当者メリットが明確であることが重要です。
管理者(営業責任者・生産責任者)の視点
管理者が見たいのは、個々のやり取りではありません。
- 今、何件の問い合わせが発生しているか
- 滞留している案件はどれか
- 特定の商品・取引先に偏りがないか
運用設計では、管理者が細かく入力しなくても状況を把握できる状態を目指す必要があります。
経営層の視点
経営層にとって重要なのは、問い合わせ対応そのものではなく、その結果得られる示唆です。
- 納期調整が頻発していないか
- 生産計画や在庫設計に無理が出ていないか
日々の運用が経営判断につながる材料として蓄積されるか、という観点で設計することが求められます。
運用設計で決めるべき最低限のルール
運用設計というと、細かなルールを作り込みがちですが、最初に決めるべきルールは少なくて構いません。最低限決めておきたいのは、次の3点です。
- いつ案件化するのか
- 電話・メールで納期確認を受けた時点で必ず登録する
- 誰が何を更新するのか
- 受付者:基本情報の登録
- 営業:進捗・回答内容の更新
- いつ終わりとするのか
- 顧客への確定回答後にクローズする
重要なのは、例外を完璧に扱おうとしないことです。
例外処理を厳密に設計すると、入力内容の判断に迷ったり、入力が後回しになるなど問題が発生しやすくなります。
運用ルールは 「8割守れれば十分」という前提で設計する方が、結果として定着しやすくなります。
管理する側の運用負荷をどう抑えるか
運用設計で見落とされがちなのが、「管理する側」の負荷です。
データを整える、誤入力を直す、使い方を説明するといった作業が、特定の担当者に集中すると、その人がボトルネックになってしまいます。
こうした自体を防ぐために、
- 管理者しか触れない項目を最小限にする
- 現場で完結する入力・更新を優先する
- 「管理者が介入しなくても回る状態」を目指す
ことが重要です。
Google Workspace を前提にした場合でも、 自動化や仕組み化にこだわりすぎると、かえって管理負荷が増えるケースがあります。
多少雑でも止まらない設計の方が、 長期的には安定した運用につながる場合もあります。
継続・拡張を前提にした設計の考え方
最後に重要なのが、最初から完成形を目指さないことです。
納期確認の問い合わせ管理は、
- 問い合わせ種別の追加
- 管理項目の追加
- 他業務(請求・クレーム等)への展開
といった拡張が想定されます。
このとき、最初の設計で作り込み過ぎていると、少しの変更が大きな修正作業になります。そのため、設計では
- シンプルな構造
- 誰でも理解できる運用
- 後から項目を足せる余白
を意識することが重要です。
業務改善は「一度作って終わり」ではなく、使いながら育てていくものなのです。
運用設計のポイント
運用設計で考えるべき本質は、「正しい運用」ではなく「続く運用」です。
- 関係者それぞれに意味があるか
- 現場の負担が増えていないか
- 管理が特定の人に依存していないか

